ポインセチア
部屋のポインセチアを見つめる。
風呂場から、小学校2年生の娘が
かけ算九九の8の段をとなえる声が聞こえる。
平成24年が終わろうとしている。
師走。
時が走り、人が走る。
ルソーは、『エミール』の中で、こう言っている。
「人生は短い、と人々は言っているが、わたしの見るところでは、
人々は人生を短くしようと努力しているのだ。人生を利用することを
知らないで、かれらは時がたちまち過ぎ去ることを嘆くのだ。
めざす目的のことばかり考えているかれらは、自分たちと
その目的とを隔てている間隔を恨めしく思っている。ある者は
明日になればと思い、ある者はひと月たてばと思い、またある者は、
いまから十年たてば、と思っている。
だれひとり今日を生きようとしない。だれひとり現在に満足しないで、
みんな現在が過ぎ去るのがひどくおそいと感じている。
時はあまりにも速く流れていくと嘆くとき、かれらはうそをついているのだ。
かれらは時の流れを速める力を喜んで買いたいのだ。
かれらの一生をむだにすることに喜んでかれらの財産を
つかいたいのだ。そして、退屈でやりきれなかった時間、待ち遠しくて
たまらなかった瞬間までの時間を、自由に捨てることができたとしら、
自分にあたえられた歳月をごくわずかな時間にちぢめてしまわなかった
ような人はおそらくひとりもいないことになる。」
「だれひとり今日を生きようとしない。」
ルソーの言葉が、胸に突き刺さる。
窓辺のポインセチアは、初冬の穏やかな陽光を浴びて、
静かに今日を生きている。
「あなたの幸せを祈る」:ポインセチアの花言葉。
別名:クリスマスフラワー。
ポインセチアの奥に、キャンドルの炎がゆれている。
文―トモアキ